2015年8月26日水曜日

コリン誘導系、つくりました!

協和醗酵バイオと新開発した「コリン」センサーの論文が, アメリカ化学会のASAP Alertに載りました。

コリンは卵黄に特に豊富な成分。卵ひとつに、およそ0.2gのコリンが入っているそうです(一日の必要量の半分だとか)。今回,私たちが開発したのは,コリンで遺伝子発現を誘導できるわけです。我々が開発したBetIは「タマゴの黄身センサ」として働くわけ(下図)。
なんに使えるかって? 以下を読んでください。
[遺伝子の発現誘導システムの必要性]
プラスチック材料、香料、色素、医薬、そしてガソリン....。酵素工学の進歩によって様々な化成品の生合成経路が創れるようになってきました。これら「人工経路」を細胞の中で効率よく働かせるためには,その経路をなすひとつひとつの酵素遺伝子の発現量やタイミングを精密に制御する必要があります。とくに僕らが創る人工経路は、それが優秀なほど(つまり「強すぎ」「非天然すぎ」なほど),宿主細胞の多大な負荷を与えます
そこでバイオ生産の現場では,十分な細胞数に達するまでは、導入した人工代謝経路は「寝ていて」ほしいわけです。そして十分な細胞数を得たら、一気に発現する。これが理想。
タイミングを見計らって,一気にビジネス
この遺伝子の発現量調節にはいろいろな方法がありますが、最もよく用いられるのが「遺伝子転写スイッチ」です。なかでもいちばん良く知られるのが,IPTGイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)という人工の糖誘導体を用いるlac転写制御系です。
しかしこのIPTGという試薬は非常に高価であり,これを使うだけで製品1kgあたり,1万円のコスト増になるようです。抗体など医薬品の生産ならともかく、化成品(kg単価は100円~1万円)の製造にはとても使えません。また人工物質なので食品添加物などの合成には歓迎されません。細胞毒性なども報告されています。

そこで我々は,コリンという,安全かつ安価な物質を誘導剤とする遺伝子誘導系を開発しました。
コリンは,サプリとして販売されているほどですから、大変安全な化合物です。それどころか,抗メタボにいい? 頭よくなる? イライラ解消? などの効用が謳われています(→ホントかどうかはわかりません)。
コリンは卵黄に豊富に含まれる栄養素ですので、かなり安価(おそらくkgあたり500円くらいでつくれるとのこと)です。これなら,あらゆる化合物の生物生産に使えるそうです。
コリン、安っ! (Sigma-Aldrichの試薬価格)
BetIというセンサタンパク質を進化分子工学を用いて改造し,性能の良い遺伝子誘導系をつくったという,ある意味,straightforwardな研究です。でも,いままでにない、キレ、馬力ともに最強の遺伝子発現スイッチがつくれました。今回はそのspecが自慢です。

2015年8月10日月曜日

日刊工業新聞

「なが〜い人工生合成経路を作るための新手法」という内容で,
日刊工業新聞が我々の成果を記事にしてくださいました。
http://www.nikkan.co.jp/news/nkx0720150810eaah.html

内容が一般向けには抽象的かも?ということで一時は掲載が危ぶまれましたが,担当記者さんの情熱のおかげで! 無事生き残りました。 

…..まだ反響はゼロですが,それはこの世界の問題であり,僕らの問題ではありません。